レントゲンコラム「被ばく」

MENU

健康コラム

レントゲンコラム「被ばく」

放射線=危険?

診療放射線技師のミウラです。
病院での検査などで目にする事のあるレントゲンですが、この仕事に携わっていると「放射線を浴びて身体は平気ですか?」という質問を時々受けます。検査のためとはいえ、放射線を浴びることに対して抵抗を感じるのは当然だと思います。では具体的にどのくらいの放射線を浴びたら危険なのでしょうか。なるべく分かり易く書いていきたいと思います。

放射線はなぜ危険?

まず放射線は危険という話をするにあたって、なぜ危険なのかを知っておく必要があります。身体に対して起こるメカニズムを説明していきましょう。
人間の細胞の中にはDNAと呼ばれる身体の設計図情報を持った物質が存在します。放射線を浴びることでDNAが損傷しますが時間と共にDNAが修復されて元に戻ります。DNAの損傷は特に珍しいことではなく、呼吸によって発生する活性酸素などでも常に攻撃されています。簡単に言うとDNAの怪我のようなものです。
小さな傷ならば正常な状態に治るのですが、深い傷や広範囲の傷を負ってしまうと治らなかったり誤ったDNA情報を構成してしまい発ガンの原因となったりします。
つまり、「放射線が身体を通過することでDNAを傷つけてしまうが時間と共に治る。しかし長時間・広範囲・高エネルギーの被ばくをすることでDNAは修復しきれなくなり身体に悪影響を及ぼす。」ので放射線は危険だと言われています。

被ばく量

病院で使用されているX線は放射線の一種であり、体内の透過性の違いによる濃度差によって現れた画像を診断に利用しています。被ばくとは放射線にさらされることを意味しています。
では実際に病院のレントゲン室で行っている撮影ではどのくらいの被ばくをしているのでしょうか?基本的には小さく薄い部位は線量を少なく、部位が厚くなり密度が高いほど多くの線量を使わなければ撮影はできません。
そこで幾つかの例を上げたいと思います。

(体格等により数値は多少変わります)
 健康診断で肺の写真を一枚撮影しました。⇒ 0.02(mSv)
 腹痛でお腹の写真を一枚撮影しました。⇒ 0.7(mSv)
 マンモグラフィの撮影をしました。⇒ 0.3(mSv)
 頭痛で頭のCTを撮影しました。⇒ 1.8(mSv)
 腹痛でお腹のCTを撮影しました。⇒ 6.8(mSv)

矢印の後に書いてある数値は、人体への影響を加味した撮影時に必要な放射線の量だと考えて下さい。単位はミリシーベルトと読みます。
しかし数値を出されただけでは、それが多いのか少ないのか分かりにくいと思います。
そこで今度は「どのくらい放射線を連続して全身に浴びたら」身体にどの様な異変が起きるのかを書き出していきます。

 一時的に白血球数が減少する線量 ⇒ 250(mSv)
 吐き気や倦怠感を感じる線量 ⇒ 500(mSv)
 被ばくした人の20人に1人が死に至る線量 ⇒ 2000(mSv)
 ほぼ確実に命の危険に晒される線量 ⇒ 7000(mSv)

このように書き出すとレントゲン撮影時の被ばく量をイメージし易くなったと思います。

重要な前提「しきい値」

まず、放射線の影響に関して「しきい値」というものがあります。これは「ある一定量を超えない限り影響を及ぼさない」というものであり、放射線はその「しきい値」の影響を受けます。
次に、上記の異変が起き始める線量の前提が「その線量を一時に全身に受けた場合」というものです。つまり「全身に連続してその線量を受け続けたらこういった影響が出るよ」という事です。
ここで病院のレントゲン室での撮影風景を説明しますと、手が痛いなら手だけ、膝が痛いなら膝だけ、頭のCTを撮るなら頭だけ検査をして、必要のない部位には極力被ばくしない様に撮影しています。なので、病院内の撮影では「全身に被ばく」という状況がそもそもあり得ません。

発ガンの確率

検査を受ける方の中には「放射線を浴びてガンにならない?」という疑問を持つ方もいらっしゃいます。では、被ばくによる発ガンの確率はどのくらいなのでしょうか?
「全身に10mSvの被ばくによる致死性ガンの発生確率」という研究結果が公表されており、その数値は「1万分の4」、具体的に言うと「胸とお腹の一般撮影後にマンモグラフィ、そして頭とお腹のCTを撮影した全線量を一度にまとめて全身に浴びたら、その人は0.04%ガンの発生確率が上がってしまう。」ということになります。ちなみに0.04%とは2人でジャンケンをして7回連続あいこなしで勝ち続けるくらいの確率です。発ガンの可能性としては不摂生な生活を続ける方が影響が大きそうな数値でした。

自然放射線

人間が生きている限り受け続ける被ばくがあります。「自然放射線」というものです。
自然放射線には、宇宙や大地等の体外(外部)から受ける放射線と、食物摂取や空気中のラドン等の吸入によって体内(内部)から受ける放射線があり、病院とは関係ない被ばくとなります。
では年間でどのくらいの被ばくを私たちは受けているのでしょうか。

「世界平均」
 宇宙線から ⇒ 0.39(mSv)
 大地から ⇒ 0.48(mSv)
 食物などから ⇒ 0.29(mSv)
 空気中のラドンなどの吸入から ⇒ 1.26(mSv)
 ⇒ 合計 2.42(mSv) 年間

「日本平均」
 宇宙線から ⇒ 0.3(mSv)
 大地から ⇒ 0.33(mSv)
 食物などから ⇒ 0.99(mSv)
 空気中のラドンなどの吸入から ⇒ 0.48(mSv)
 ⇒ 合計 2.1(mSv) 年間

日本の食物からの被ばくが多い理由は魚介類が食卓に並ぶことが多い食文化に由来しています。病院に行かなくても毎年頭のCT一回分くらいの被ばくを受けていることになります。
飛行機に乗る方は高度による宇宙線の増加によりもう少し多めの影響を受けています。
具体的には高度12,000mで1時間飛行すると約0.005(mSv)の被ばくと言われています。
羽田⇔北海道を飛行機で往復すると約0.01(mSv)の被ばく量なので胸部レントゲン写真の半分の被ばくを受けたことになります。

「被ばくが怖いからレントゲン検査を受けたくない」と考えている方は、「人類は誕生以来、常に自然放射線を受け続けている」という事実を知れば、恐怖心も薄れるのではないでしょうか。

職業被ばく

私たち診療放射線技師や医師、看護師など医療従事者が医療行為上被ばくする場合があります。これは被写体の保持や不動等が困難な場合に介護・介助を行う上で医療従事者が自らの仕事の結果として被る被ばくのことです。
病院という場所的に健常者が行える行動が難しい方も多数みえます。そういう方に寄り添って業務を遂行すると職業柄どうしても被ばくしてしまう事があります。
しかしそういった被ばくを最小限に抑える事ができるのが私たち診療放射線技師という職種です。

病院で使う放射線って?

病院で使用する放射線は「法的に管理された機器で必要な部位に必要な線量だけ資格を持ったスタッフが照射する」ものであり、事故などで見聞きする被ばくとは全く違うものです。
場合によって患者に寄り添って職業被ばくを管理しているスタッフが扱っているものなので、安心して検査を受けていただいて大丈夫です。
そして放射線を浴びるデメリットより検査結果を得る事によるメリットの方が遥かに大きいのではないかと思いますが、いかがでしょうか?

今回は放射線技師の立場からなるべくわかりやすく「被ばく」について書かせて頂きました。実際はもっと細かい説明が必要な箇所もありましたが分かり易さ優先でシンプルに説明しました。楽しく理解を深められた方が一人でも多くいれば幸いです。
数値などは各種公表研究結果から抜粋しています。ここに感謝の意を示させていただきます。

一覧に戻る

ページの上部へ移動します