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健康コラム

骨盤臓器脱の改善と予防について

婦人科 頼永 八州子

私の外来は高齢の方が多く、骨盤臓器脱を心配して受診される方がかなりいらっしゃいますが、私はいわゆる骨盤底筋体操をしないように指導してます。その理由を、実例を挙げて説明します。

実例①

70代女性:下垂感を主訴に来院。いつからその症状に気づきましたかと尋ねると、「昨日からです。」そこで何かいつもと違う事をしたか尋ねると「そういえば昨日テレビで骨盤底筋体操の特集があり、自分も予防しようと一生懸命にしました。」骨盤底筋体操は腹筋の力を抜いて行うことが重要なのでそれを尋ねると、「はい。力を抜いてやってます。」しかし実際に自分の下腹部に手をあてて力を入れずにできているか体操を再現してもらいますと、「あれ、力が入っている。」と。これでは体操で予防するつもりが腹圧をかけて、骨盤臓器を押し出そうと努力をしているようなものです。実は私もやってみましたがこの方と同様、腹筋の力が入ってしまいした。そこでやり方に間違いがあるのか確かめたいと思っていたところ、女性骨盤底学会で、骨盤底筋体操の実践コーナーがあったので、インストラクターに指導を受けながら私も参加してみました。しかし指導いただくも、やはり腹筋に力が入ります。その後も、同様の訴えの患者さんがいらしたので、体操を中止してもらうと違和感や下垂感が改善しました。

実例②

80代女性:お風呂で洗っていたら股の辺りに何かあるのに気づいたという主訴で来院。きっかけは便秘で強くいきんだためでした。もともと便秘ではないが、一回の便秘でものすごく強くいきんだらしく、その後から違和感があり、お風呂で出ている事に気づいたそうです。

実例③

70代女性:下垂感で受診。この方は外科で、腹壁瘢痕(ふくへきはんこう)ヘルニア(昔受けた開腹手術による瘢痕が、薄く引き伸ばされてそこから腸が盛り上がってくる状態)の診断がなされていました。転んで圧迫骨折をおこし、身長がかなり低くなった後から、骨盤臓器脱が出現してきました。ペッサリー療法で骨盤臓器は収まりましたが、その直後から腹壁瘢痕ヘルニアが余計膨らんでしまいました。身長が縮んでも内臓の容積は変わりませんから、どこか柔らかい部分があれば、そこに飛び出して内臓の場所を確保したわけです。

なお、私の外来患者さんの例では、若い頃の身長に比べて、大体5㎝以上身長が低くなると何等かの骨盤臓器脱症状が出現し、10cm低くなると確実に骨盤臓器脱が出現しています。
背が低くなっても内臓の容積は同じですから、上下の高さが短くなれば、前後を広げて容積を保つ、つまりおなかがポッコリ飛び出して、内臓のスペースを作ります。もしそのスペースを確保できなければ、高い腹腔内圧が続き、息苦しいとか食べ物が十分入らないとか、何等かの圧迫症状が出現する事になります。しかし多くの女性は、おなかを引っ込めようと腹筋体操をしたり、補正下着をつけたり、よけい腹圧を上げてしまいます。その結果、内臓を包んでいる組織が負担に耐えられなくなり、弱い部分が外側に突出して戻らなくなります。女性の骨盤は出産のため男性より出口部が広く、伸びやすいため、ここから内臓が飛び出し、骨盤臓器脱となります。(男性では、骨盤底が伸びる代わりに、ソケイ部から腸が飛び出すソケイヘルニアが増えるのだと思います。)
ですから理論的には、腹圧が高くなった原因を除去できれば、骨盤臓器は元の位置に戻せるわけです。圧迫骨折による低身長などのように不可逆的なもの以外は、努力次第で原因を解除できるものがたくさんあります。しかし、多くの患者さんは何が腹圧上昇の因子か、気づいていないためかえって悪化するような努力を行ってしまいがちです。

当科の骨盤臓器脱患者さんにみられた腹圧上昇因子を次に挙げてみます。
• 肥満(特に中年以降急に増加した場合)
• 便秘
• 猫背で頭の位置が体より前にある姿勢
• 弾みをつけた反復運動の継続
• 喘息や花粉症などの呼吸器疾患
• 整形外科疾患や脳血管疾患により日常動作がぎこちない
• 相対的力仕事(これは特に患者さんが自覚していない事が多く、若い頃より衰えた筋力で若い頃と同じ負荷をかけると、手足の力が足りない分、全身の力を動員する必要があり、腹圧上昇につながります。)など

今年に入って、昨年からのコロナ自粛で家からほとんど出なかった高齢患者さんほど、足腰が弱り、特に何もしていないのに骨盤臓器脱が悪化し、手術件数が増えました。これは、相対的重労働による負荷だったと推測します。
弾みをつけず、腹筋の力を抜いてできる筋トレと考えた時、インナーマッスルの体操が極めて重要になってきます。一定の姿勢を支え続ける時にこれらの筋力は発揮されるので、そういった体操を継続できれば、骨盤臓器脱の予防にもなるばかりか、筋力アップして生活の質が向上する事でしょう。私の外来で体操の会に参加し、継続している方からは、家事の疲れが軽減したり、歩行が軽快になったりとの意見も頂いております。

骨盤底筋は全身の筋力を鍛える中で一緒に鍛えることが大切で、それがひいては、骨盤臓器脱の改善や予防につながると考えます。そういうわけで、仮に腹筋の力を緩めて骨盤底筋体操ができたとしても、お勧めしないのです。
様々な事情で体操は難しいという方は、太っている方は痩せる、自分にとっての相対的重労働となっている事があればそれを減らす、便秘は力んで解消するのではなく緩下剤を使って腹圧をかけないで排便するようにするなど、骨盤底にかかる負担を減らすという観点で、生活を改善する事も有効です。

最後に、手術療法は究極の対症療法であると認識し、術後に快適な生活を取り戻せたとしても、今までの生活習慣を必ず見直して、腹圧を下げる努力が必要です。そうでないと、高い腹圧の逃げ場を求めて別の場所が飛び出したり、腹圧性尿失禁が悪化したりする可能性があります。手術後も体操できる方は継続し、これらの注意事項を守って、生活の質を維持してください。

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